推し活×心理

な​ぜ人は​推しに​ハマるのか|​「また​見たい・​身近に​感じる・​世界が​広がる」​の​心理

夜中に切り抜き動画を一本だけ見るつもりが、気づけば三本目に入っています。通知が来ていないと分かっていても、アプリを開いて更新を確かめてしまいます。推しにハマった経験のある人なら、この「自分でも説明しづらい引力」に覚えがあるはずです。

推しにハマる心理のイメージ

この引力については、心理学と脳科学の分野で説明が積み重ねられてきました。推しにハマるのは、意志が弱いからでも、現実逃避をしているからでもありません。

答えを先に言うと、三つの心の動きが重なっている

推しにハマる理由は、次の三つの心の動きから考えると分かりやすくなります。

  1. 「また見たい」が積み重なる(報酬の学習)
  2. 会ったことがなくても身近に感じる(一方向の親密さ)
  3. 推しを通じて自分の世界が広がる(自己の拡張)

新しい動画を見つけてうれしくなる。何度も声や考え方に触れるうちに、その人を身近に感じる。さらに、推しをきっかけに新しい音楽や場所を知る。こうした動きが重なると、「好き」は一度きりで終わらず、もっと知りたい気持ちに変わっていきます。どの働きが強いかは人によって違い、三つが必ずそろうという意味ではありません。以下で、三つの働きを順に説明します。

そもそも推しがいる人は珍しくありません。矢野経済研究所は2025年7月、15〜69歳の男女10,000人を対象に調査を行いました。この調査では、オタクを自認する人のうち「推し」がいる人は64.2%で、31分野の一人あたり年間平均消費金額は50,472円でした(矢野経済研究所「オタク」に関する消費者アンケート調査)。財務省も、広報誌「ファイナンス」2025年11月号で推し活を経済トレンドとして取り上げています。推し活は、いまや官庁の文書が扱う規模の行動です(財務省「ファイナンス」2025年11月号)。

研究の起源をたどる

推し活という言葉は新しいものですが、そこで起きている心の働きを説明する理論は、意外なほど古くから積み上げられてきました。

年出来事何を説明する理論か
1956年ホートンとウォールが「パラソーシャル・インタラクション」を提唱メディア越しの相手に感じる一方向の親密さ
1980年代〜アーサー・アロンとエレイン・アロンが自己拡張理論を提唱親密な関係を通じて自己が広がる動機
2002年マカッチョンらがセレブリティ崇拝を測る尺度(Celebrity Attitude Scale、CASとして知られる)を開発有名人への愛着の段階と強さの測定
2015年日本の認知科学で「プロジェクション」概念が提唱意味づけした表象を対象へ投射する働き

1956年の原論文の副題は「距離を隔てた親密さ」でした。当時はラジオとテレビが普及し、会ったことのない演者に友人のような感情を抱く人が現れていました。ホートンとウォールは、この現象を説明するためにパラソーシャル・インタラクションという言葉を作りました(Horton & Wohl (1956) 原論文アーカイブ)。パラソーシャル関係とは、メディア上の人物に対して一方向に親しみや愛着を抱く関係のことです。相手側からは個別に認識されないという非対称性も、定義に含まれます。ホートンとウォールは、SNSが登場するはるか前に、いまの推し活の基本的な形を言い当てていたことになります。

2002年に心理学者のマカッチョンらが開発したセレブリティ崇拝尺度は、有名人への関心を段階でとらえた点で新しいものでした。この尺度では、娯楽として楽しむ段階、強い個人的愛着の段階、空想が生活に食い込む段階の順に強度が上がります。尺度は開発以後、100本以上の研究で使われています(McCutcheon, Lange & Houran (2002), British Journal of Psychology)。ハマるかハマらないかの二択ではなく、濃さの目盛りがあるという発想です。

第一層:「また見たい」が積み重なる(報酬の学習)

最初に働くのは、うれしかった体験を覚えて「もう一度見たい」と感じる仕組みです。心理学では、これを報酬の学習と呼びます。

脳が学ぶ手がかりは、予想していたことと実際に起きたことの差です。期待していなかった新曲やサプライズ告知が来ると、「思っていたよりうれしい」という差が生まれ、人は次も確認したくなります。この予想と結果の差は、専門的には報酬予測誤差と呼ばれます(脳科学辞典「報酬予測」)。ドーパミンは単なる「快感の物質」ではなく、この学習や「次も確かめたい」という気持ちにも関わっています。

推しの発信は、この仕組みと相性が良すぎます。更新のタイミングは不定で、内容も予想できません。何もない日が続いたあとに、突然サプライズ告知が来ます。学習理論では、いつ来るか分からない報酬(変動報酬)を受けた行動は、決まった間隔で報酬を受けた行動よりも消えにくいことが知られています。つまり、「更新がないかもしれない」状態だからこそ、確認する習慣が強く残ります。

だからこそ、通知を切ることには意味があります。通知を切ると、意志で我慢しなくても、予測不能な合図を受け取る回数そのものが減ります。供給が多い時期に情報を追いきれなくなる感覚も、ガチャやスパチャのように結果がその場で決まる仕組みにのめり込む感覚も、この報酬の学習と関わっています。

話題の「ドパガキ」とはどう違う?

短い動画や通知などの刺激を次々に追う自分を、SNSでは「ドパガキ」と呼ぶことがあります。「ドーパミン中毒のガキ」を縮めたネットスラングです。女子高生ラボも、2026年6月の流行語調査でこの言葉を取り上げました(調査元の発表)。

ドパガキは病名ではなく、推しへの気持ちを全部説明する言葉でもありません。推しへの気持ちには、「次の動画が見たい」という欲求に加えて、その人への親しみや、自分の世界が広がる喜びも含まれます。語源や使い方は、ドパガキの用語解説にまとめました。

第二層:会ったことがなくても身近に感じる(一方向の親密さ)

次に働くのは、画面の向こうの相手をだんだん身近に感じる心の動きです。相手の声を聞き、考え方を知って癖まで覚えると、実際には会ったことがなくても親しみが生まれます。心理学では、このような関係を一方向の親密さ(パラソーシャル関係)と呼びます。相手はこちらを一人ひとり知りません。それでも、こちらは何度も相手に触れているため、友人のような近さを感じることがあります。

配信のコメント欄やSNSのリプライがあると、この感覚はさらに強まります。名前を読まれる、いいねが付く、認知されたと感じる。そうした瞬間に、一方向だったはずの関係が双方向のように感じられます。ただし、どこまで反応を返すかを決めているのは常に発信側です。この非対称性を忘れずにいると、推しとの距離感を保ちやすくなります。

臨床心理士・公認心理師の二宮有輝氏は、推しを「応援することによって何かを得られる存在」と定義しています。二宮氏によれば、推し活はロールモデルの獲得や自己開示を通じて「人生の意味を見出す行為」として働きます。二宮氏は、学校に行けない子どもが、推しの話だけはできるうちに少しずつ心を開くケースがあるという観察も紹介しています(ソレドコ 臨床心理士・二宮有輝氏インタビュー)。会えない相手との関係が、現実の人間関係を築くきっかけになることもあります。

第三層:推しを通じて自分の世界が広がる(自己の拡張)

三つ目は、推しをきっかけに、自分の興味やできることが増えていく心の動きです。心理学では、これを自己の拡張と呼びます。難しく聞こえますが、意味はシンプルです。大切な相手から新しい考え方や経験を受け取り、自分の世界が前より広くなることです。この考え方は、米国の心理学者アーサー・アロンとエレイン・アロンが恋愛研究の中で提唱しました。2025年には、起源から近年の研究までを整理した総説も掲載されました(Emery (2025), Social and Personality Psychology Compass)。

推し活で自己の拡張が起きていることは、実感として分かりやすいはずです。推しが好きな作家を読み、推しの出身地を訪ね、推しが挑戦した競技を始めます。知らなかった言語を覚え、行ったことのない街の地理に詳しくなります。これらは推しのためにしていることのようで、結果として広がっているのは自分の世界です。推しは好きな相手であると同時に、知らなかった世界を知るきっかけにもなっています。 買う・見るだけでは終わらず、自分に新しい経験が残るところに、推し活の大きな魅力があります。

「沼」という言葉が言い当てているもの

日本の認知科学では、2015年に提唱された「プロジェクション」という枠組みで推し活を説明する研究が進んでいます。プロジェクションは、自分で意味づけした表象を世界の対象へ投射し、物理世界と心理世界を重ね合わせる心の働きです。この視点に立つ研究は、推し活を応援・生成・育成・派生・拡張という五つの要素からなる能動的な行動として整理しています(講談社Cステーション 認知科学の視点で紐解く「推し活」の正体)。

ファンは推しを見て何かを感じ、その感情をもとに投稿や創作や遠征といった働きかけをします。その行為が、また新しい感情を生みます。この循環がぐるぐる回り続ける状態を、ファンは経験的に沼と呼んできました。学術的な説明と、現場で自然発生した言葉が、同じ状態を指しています。

一方で、精神科医の熊代亨氏は、行動嗜癖という枠組みから強い没入が起こりやすい状況を分析しています。熊代氏によれば、不安や失望のさなかに「たまたま出会ったものが期待以上の喜びをもたらした時」に、強い没入が生じやすくなります(現代ビジネス 熊代亨氏の分析)。ハマった時期を思い返すと、進学や転職、人間関係の変化と重なっていた人は少なくないでしょう。その重なりは弱さの証拠ではありません。そのとき必要だったものが手に入ったことを示しています。

自分のハマり方を観察する

メカニズムを知る一番の使いどころは、自分を責めるためではなく、扱い方を選べるようになることです。月に一度、次の項目を眺めてみてください。当てはまらないものが増えたときが、調整のタイミングです。

  • 新情報を待つ時間が、睡眠や仕事を削っていない
  • 通知を切る日を、自分の判断で作れる
  • 推しをきっかけに始めたことが、推し以外の場面でも役に立っている
  • 支出の上限を先に決め、その枠の中で選べている
  • 好きな気持ちが薄れた日を、失格のサインだと思っていない
  • 推し活の外に、別の楽しみや人間関係が一つ以上ある

チェックが減っていても、それだけで問題があるとは限りません。ただ、注意したい状態が四つあります。苦痛が続く、生活に損害が出ている、自分で止めにくい、その状態が長く続く、の四つです。これらが重なっているときは、推し活疲れの域を越えている可能性があります。精神科・心療内科や公認心理師、自治体の相談窓口を頼ってください。この記事は一般的な解説であり、診断や治療の助言ではありません。

最近1年の研究の動き

2025年から2026年にかけて、この分野では対象の広がりが目立ちます。2025年3月には、混合研究法による論文が発表されました。この研究は、インド在住の若者124名(平均20.6歳)を対象に、パラソーシャル関係の強さと心理的幸福感の関連を調べました。その結果、関係の「強度」そのものは幸福感と有意な関連を示しませんでした(International Journal of Adolescence and Youth (2025))。この結果からは、強くハマっているかどうかより、その関係を通じて何を得ているかのほうが効いていると読み取れます。

同じ2025年には、経験サンプリング法を使った研究がMedia Psychology誌に発表されました。この研究は、生身の人間とバーチャルインフルエンサーの双方について、パラソーシャル関係が生まれ、崩れていく過程を追っています。相手が実在の人間でなくても、同種の関係が成立することが確かめられつつあります。VTuberやAIキャラクターを推す人が増えている現状に、そのまま当てはまる知見です。

推し活未来研究所メモ:引力の設計には責任がともなう

三つの層のうち、企業が最も操作しやすいのは第一層です。更新のタイミングをずらす、開封するまで中身が分からない形にする、期間を区切って急がせる。予測不能性を高めれば、確認する回数も購入の回数も上がります。ただしこうした手法は報酬系の性質を利用して行動量を増やすだけで、好きな気持ちを深めるものではありません。短期の数字は伸びても、冷め期や離脱を早める設計になりがちです。

長く続くファンダムを見ると、効いているのは第三層のほうです。推しをきっかけに読書を始めた、走り始めた、その街を好きになった。自己拡張が起きた体験は、推しの活動が止まっても本人の中に残ります。だからこそ、ファンは推しのもとへ戻ってこられます。研究所は、公式が限定と即時性を積み上げる導線だけでなく、ファンが自分の世界を広げられる余地を用意すべきだと考えています。アーカイブ、学べるコンテンツ、一人でも参加できる企画がその例です。

そしてもう一つ。第二層のパラソーシャル関係は、演者側が意図的に強められるものです。名前を呼ぶ、目を合わせる、個別に話しかけているように見せる。こうした演出が仕事として成立している以上、関係を強めた側には、ファンが現実との境界を保てるよう配慮する責任があります。引力を設計できる立場にある人は、ファンがのめり込みすぎないよう手を打つこともできるはずです。

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よくある質問

推しにハマるのは意志が弱いからですか?

違います。推しにハマるのは、「また見たい」と覚えること、会えない相手を身近に感じること、推しを通じて自分の世界が広がることが重なった結果です。どれも人に備わった自然な心の働きで、意志の強弱だけでは説明できません。

パラソーシャル関係とは何ですか?

メディア越しの相手に、友人のような親しみを一方向に感じる関係のことです。1956年に社会学者のホートンとウォールが提唱した概念で、相手はこちらを個別に知らないという非対称性が特徴です。

どうして推しの新情報が待ち遠しいのですか?

報酬がいつ来るか分からないときのほうが、決まった時間に来るときより行動を続けやすいことが、学習研究で知られています。更新が不定期であるほど、確認する習慣は残りやすくなります。

推し活は依存症と同じものですか?

同じではありません。推し活そのものは病名ではなく、多くの人の推し活は熱意の範囲内に収まっています。ただし、苦痛や生活への損害、制御しにくさが続く場合は、精神科・心療内科や公的な相談窓口が扱う領域です。

ハマる時期に傾向はありますか?

環境が変わる時期や気持ちが揺れている時期に、人は推しへ強く没入しやすいという専門家の観察があります。ハマった時期を思い返すことは、自分が何を必要としていたかを知る手がかりになります。