推し活×ビジネス

推し活×福利厚生|推し活休暇・​推し活​手当を​導入した​企業の​事例

推しのライブやイベントに参加するための休暇や手当を、福利厚生として設ける企業があります。導入を考える際には、利用できる人の範囲・支給額・休暇の日数を具体的に決める必要があります。

推し活×福利厚生のイメージ

推し活休暇、推し活手当、遠征のための連休は、ここ数年で耳にする機会が増えました。これらの制度は実際にどれくらい普及し、いくら支給され、何日休めるのでしょうか。公表されている数字と各社の発表をもとに、制度設計の実務として整理します。

導入率は11.0%。規模で4倍以上の開き

マイナビキャリアリサーチLab「推し活と仕事に関する調査2026年」は、2026年7月1日から7日にかけて正社員20,545名と企業の中途採用担当者816名を対象に実施されました。この調査の数字は、現時点で最も広い母集団から得られた実態です。

項目数値
社員の推し活を支援する制度がある企業11.0%
 従業員50名以下3.6%
 従業員51〜300名9.1%
 従業員301名以上16.6%
現在推し活をしている正社員32.3%(20代女性は61.2%)
推し活の月間平均支出1万4,125円
「推し活のために仕事を頑張る」62.8%(20代は69.4%)
「推し活がしやすい会社」に魅力を感じる56.4%(20代は61.7%)

この表からは、二つのずれが読み取れます。ひとつは、正社員の3人に1人が推し活をしているのに、支援制度がある企業は10社に1社しかないという需給の差です。もうひとつは、規模による4倍以上の開きです。制度化の余力がある大企業ほど導入が進み、就業規則の改定コストが相対的に重い中小企業ほど遅れています。

推し活支援制度が、福利厚生全体のなかでどの位置にあるかも押さえておきます。帝国データバンク「福利厚生に関する企業の実態調査」は2025年9月16日から30日に実施され、有効回答は1万554社でした。この調査で企業が今後取り入れたい福利厚生の上位には社員旅行やフレックスタイム(いずれも11.4%)が並び、推し活関連制度への言及はありません。推し活休暇はまだ福利厚生の主流ではなく、差別化のための選択肢という段階にあります。

裏を返せば、導入すれば目立ちます。月間支出1万4,125円は、年間にすれば約17万円です。手当で全額を賄うのは現実的ではありません。それでも年1万円の補助があれば、「会社が推し活を認めている」という十分な意思表示になります。

制度は3つの型に分けられる

公表されている事例を整理すると、推し活支援制度はおおむね次の3類型に分けられます。

型内容企業側のコスト主な狙い
休暇型年1日〜数日の特別休暇、遠征用の連休有給消化分のみ、直接の追加支出なし記念日・遠征・イベント参加への配慮
手当・補助型チケット代・グッズ代・遠征費の定額補助1人あたり年5,000円〜2万円程度経済的負担の軽減、制度の可視化
早退・時短型特定曜日の早退、半休の柔軟運用ほぼゼロ(勤務時間の組み替え)平日夜の現場参加を可能にする

多くの企業は、複数の型を組み合わせて導入しています。休暇だけでは遠征費の負担が残り、手当だけでは平日夜のイベントに行けないからです。

事例:制度をどう設計したか

夢展望|「好きを大切にする文化」から逆算した推し活休暇

アパレルECの夢展望株式会社は、2025年11月28日に「推し活休暇」制度の新設を発表しました。

  • 狙い:「『好き』という気持ちを大切にする文化」を社内に根づかせ、従業員の個性と企画力を引き出す。Z世代を含む多様な人材への採用訴求も兼ねる
  • 施策:年間概ね2〜3日の休暇(年間休日数との調整により年度ごとに会社が定める)。就業要件を満たす全社員が通年で任意に取得できる。金銭補助の有無は公表されていない
  • 研究所の見立て:制度の中身以上に、発表の順序が参考になります。ネットショップ担当者フォーラムの取材でも語られている通り、同社は「好きを大切にする」という文化の説明を先に置き、休暇制度をその帰結として提示しています。制度から説明すると、「なぜうちの会社が?」という疑問が社内に残ります。文化から説明すれば、制度そのものを改めて説明する必要がなくなります

K Village|利用件数100件を数字で開示した推韓サポート

韓国語教室を運営する株式会社K Villageは、2025年7月に「#推韓(おしかん)サポート」を導入し、2026年2月10日に利用件数100件突破を発表しました。

  • 狙い:社員の「好き」を福利厚生として公認し、エンゲージメントと定着率を高める
  • 施策:渡韓手当は1回1万円(上期・下期各1回、年間最大2回)。エンタメ推し活手当も同額・同条件で、税込8,000円以上のチケットを自己負担していることが条件。正社員に限らずアルバイト・役員まで対象
  • 結果:開始から半年強で利用100件を突破
  • 研究所の見立て:この事例で価値があるのは、制度設計より実績の開示です。推し活休暇を発表する企業は増えましたが、利用実績を数字で出す企業はほとんどありません。「100件」という数字は、制度の説明を重ねるよりはるかに強く、「使える制度である」ことを求職者に示します。対象をアルバイトまで広げたことで、一部社員だけの特典という不公平感も事前に防いでいます

NSグループ|取らない方が損になる遠征5連休

カラオケパセラを運営する株式会社NSグループは、2025年3月19日に「全国ツアー遠征連休制度」と推し活アフタヌーンティー半額を発表しました。調査対象期間より前の導入ですが、遠征を正面から支援する数少ない先行事例です。

  • 狙い:遠方での連日開催ライブに参加できる環境を整え、推し活を全面支援する企業ブランディングにつなげる
  • 施策:年1回以上、5連休以上の取得を義務化。未取得の場合は上司にペナルティが課される。加えて名物のアフタヌーンティーを社員が半額で利用でき、プロジェクタールームで推しの映像を観ながら過ごせる
  • 研究所の見立て:「取得しないと上司が困る」という設計は、形骸化への直接的な対策です。休暇制度が使われない最大の理由は制度の不備ではなく、申請しづらい空気にあります。職場の雰囲気は呼びかけでは変わりませんが、評価の対象を部下から上司へ移せば変わります

DIVISION1|月額定額で申請を簡略化した推し活手当

DIVISION1株式会社は2025年3月31日、公式ブログで「推し活手当」を発表しました。対象はコンサート参加費、グッズ購入、舞台鑑賞費、ファンクラブ会費、関連書籍購入と幅広く設定されています。月ごとの定額支給にして、申請手続きを簡略化しました。具体的な金額は公表されていません。

  • 研究所の見立て:対象活動を広く取り、月額定額にした点が実務的です。都度精算にすると、社員は何を推しているかを申請書に書くことになります。推しバレを望まない人にとって、申請書に推しを書くことは制度を使わない十分な理由になります。定額で用途を広く取れば、こうした心理的な負担が下がります

先行事例:この分野を作った2社

推し活休暇という言葉が生まれたのは、ここ1〜2年のことではありません。

株式会社ジークレストは2017年12月、福利厚生制度「STYLEプラス」の一環として「推しメン休暇」を導入しました。社員は、アニメ・漫画・ゲームのキャラクターや俳優・声優の誕生日・記念日に年1日の休暇を取得できます。活動費は、上限5,000円まで会社が負担します。この制度は当時からゲーム・アニメ系メディアで広く紹介され、この分野の原型になりました。

favy株式会社は2023年4月1日、水曜16時以降の早退を認め、上限2,000円×年5回まで補助する「推し活ウェンズデー」を導入しました。2024年には曜日限定を撤廃し、「推し活ウィークデー」へ更新しました。曜日を固定すると、「水曜以外は使えない」という不満が出ます。運用しながら制約を外した経過が公開されており、小規模組織の参考になります。

成功と形骸化を分けるもの

観点機能している設計形骸化しやすい設計
対象範囲家族・趣味・スポーツまで広く含めるアイドル・アーティストに限定する
雇用形態アルバイト・役員まで対象(K Village)正社員限定にする
申請自己申告ベース、用途を細かく問わない推しの実在や熱量を証明させる
取得の圧力未取得を上司側の課題にする(NSグループ)「取れる」とだけ告知して現場任せ
発信利用件数など実績を数字で開示導入プレスリリース1本で終わる
位置づけ企業文化の説明とセットで語る他社事例の見た目だけを模倣する

人事系メディアchreaは2025年7月11日の記事で、他社制度を表面だけ真似た場合の失敗リスクを3点指摘しています。まず、管理職が趣旨を理解しておらず、申請しづらい空気が残ることです。次に、「制度はあるが使いづらい」という実態がSNSで拡散し、企業評判を損なうことです。さらに、採用時の期待値と入社後の実態が乖離し、早期離職につながることも挙げています。同記事は「思想→制度→共感→応募」という順序を提案しています。夢展望の発表順序は、この提案に沿った形です。

なお、推し活休暇が大手企業で炎上に発展した例は、いまのところ表面化していません。ただし「推しがいない社員には関係ない」という不公平感は、制度設計の段階で必ず論点になります。対象範囲をどこまで広げるかは、導入前に決めておくべき項目です。

導入を検討する担当者へ

事例に共通する確認項目は、次の8つです。

  • 制度の前に、自社の価値観をひとことで説明できるようにした
  • 対象を推しに限定せず、家族・趣味まで含める範囲を決めた
  • 正社員以外を含めるかどうかを先に決めた
  • 申請時に理由をどこまで書かせるかを決め、最小限にした
  • 手当を給与課税とするか福利厚生費とするか、税理士・社労士に確認した
  • 就業規則のどの条項を改定するかを洗い出した
  • 管理職向けに制度の趣旨を説明する場を用意した
  • 導入半年後・1年後に利用実績を集計し、開示する方針を決めた

費用感の目安は事例から逆算できます。手当型は1回5,000円〜1万円が相場帯です。年間の1人あたり上限は、5,000円(ジークレスト)から2万円(K Villageの各手当)です。K Villageでは2種類の手当をそれぞれ年2回まで利用でき、両方を利用した場合は合計最大4万円です。休暇型は日数を増やしても直接の追加支出は有給消化分のみで、中小企業でも導入しやすい設計です。準備については、既存の特別休暇・慶弔休暇制度に枠を追加する形なら、就業規則の一部改定で対応できます。

ひとつ注意点があります。手当を給与課税として扱うか、福利厚生費として処理するかは、各社とも公表していません。導入前に税理士・社労士へ確認してください。権利処理については、休暇や手当そのものに企業が推しのIPを使うわけではないため、基本的に懸念は生じません。ただし、社内報や採用広報で社員の推しの画像・グッズを紹介する場合は、著作権・肖像権への配慮が必要です。

推し活未来研究所メモ:制度が守っているのは休みではなく、嘘をつかない自由

推し活休暇の効果を「社員が休めること」だと考えると、設計を間違えます。年1日の休暇が増えても、実質的な価値は限られます。多くの会社では、有給を使えば同じ日に休めるからです。

それでも制度に意味があるのは、休む理由を偽らなくてよくなるからです。有給の理由欄に「通院」と書いてライブへ行き、上司に聞かれれば言葉を濁します。この小さな嘘の積み重ねが、会社と自分のあいだに距離を作ります。マイナビ調査で推し活層の62.8%が「推し活のために仕事を頑張る」と答えているのは、推し活が仕事の外にある趣味ではなく、働く動機と地続きになっているからです。推し活を隠さなくてよい状態を作ることが、制度の本来の目的だと研究所は考えています。

だからこそ、申請時に推しを説明させる運用は、制度の目的に反します。理由を問わない休暇なら、そもそも制度として名前を付ける必要はないのでは、という指摘はもっともです。それでも名前を付ける価値があるのは、名前が「この会社ではそれが認められている」という合図になるからです。名前を合図として機能させたいなら、制度の存在ではなく利用の実績を示すしかありません。K Villageの「100件」が採用広報として強いのは、そのためです。

そして、導入率11.0%という数字は、この分野がまだ黎明期にあることを示しています。2025年から2026年にかけても、新規導入の発表は決して多くありません。2025年9月以降に公表された新規導入も、数件にとどまっています。ここで先に動く企業は、制度の中身以上に「先に動いた会社」という記憶を採用市場に残せます。ただしその記憶は、使われない制度だと分かった瞬間に逆方向へ働きます。導入を決めるより、1年後に実績を出せるかどうかを先に決めておくことをおすすめします。

関連記事:社内推し活とは/推し活マーケティングとは/推し活の市場規模はいくら?/推し活疲れとは

よくある質問

推し活休暇を導入している企業はどれくらいありますか?

マイナビキャリアリサーチLabの2026年調査では、社員の推し活を支援する制度がある企業は全体の11.0%でした。従業員301名以上では16.6%、50名以下では3.6%と、規模による差が大きい状況です。

推し活手当の金額相場はいくらですか?

公表事例では1回あたり5,000円から1万円が中心です。ジークレストは活動費上限5,000円、K Villageは1回1万円を年2回まで、favyは1回2,000円を年5回までとしています。

推し活休暇は何日くらい取れますか?

年1日から数日が一般的です。ジークレストは年1日、夢展望は年間概ね2〜3日です。NSグループは、全国ツアー遠征向けに年1回以上の5連休取得を義務づけています。

制度が形骸化しないためには何が必要ですか?

申請理由を細かく問わない運用にすること、管理職が趣旨を理解していること、利用実績を数字で開示することです。K Villageは導入から半年強で利用100件突破を公表しました。

対象は「推し」に限定すべきですか?

限定しない企業が増えています。アイドルやアーティストに絞ると、推しがいない社員との間に不公平感が生じます。そのため、家族・趣味・スポーツまで広く対象にする設計が主流です。