推し活×本棚

『「好き」​を​言語化する​技術』​書評|​「やばい」​の​先に​ある、​推し語りの​筋トレ本

『「好き」を言語化する技術』書評|「やばい」の先にある、推し語りの筋トレ本の書影
書影:版元ドットコム(出版社提供・ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」。この副題に心当たりがある人は、たぶん全推し活人口の9割です。

書評家・三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書・2024年刊)は、その「やばい」の先へ進むための、いわば推し語りの筋トレ本です。30万部を突破し、オリコン上半期新書ランキング1位にもなった話題作です。

この本について

著者の三宅香帆さんは、自身も宝塚やアイドルを愛する書評家です。本書は、「好き」を言葉にする工程を、SNS投稿・おしゃべり・ファンレター・長文レビューと場面別に分解しています。そのうえで、例文つきで「自分だけの言葉」の作り方を教えてくれます。

本書の中心にあるメッセージはシンプルです。推しを語ることは、自分の人生を語ることです。借り物の「エモい」「神」ではなく、自分の体験とつないだ言葉だけが、他人の心を動かします。

実用書としての作りも親切です。「うまく書こうとしなくていい」「ありきたりな言葉からいったん離れる」という心構えから始まり、具体的な手順へと段階的に進みます。文章術の本にありがちな「読んだけど書けない」で終わりにくいのは、著者自身の推し語りが例として豊富に載っているからです。読みながら、そのまま真似できます。

三宅香帆さんは、「やばい」で止まった感想を動かす最初の問いをこう表しています。

立派な表現を探す前に、自分の反応へ「なぜ」と聞く。誰のどの行動に驚いたのか、過去の何を思い出したのかをたどると、借り物ではない言葉が生まれます。

印象的な論点:感想は「先に」メモする

本書の技術のなかで、いちばん今日から使えるのは「他人の感想を見る前に、自分の感想をメモする」という習慣です。

ライブや映画のあと、私たちはつい先にSNSを開いてしまいます。そして流れてくる巧い感想を読むうちに、自分の中にあったはずの言葉を、他人の言葉で上書きしてしまいます。数日後に残っているのは、「エモかった」という要約だけです。心当たりのある人は多いはずです。

対策はシンプルで、順番を変えれば済みます。まず自分のメモ、それからSNS。たったこれだけで、感想は「借り物」から「自分だけの記録」に変わります。道具も才能もいらない、この本らしい技術です。

編集長の視点

研究所の目でこの本を読むと、まず「これはファン向けの本の顔をした、マーケティングの本だ」と思います。

私たちはOSHI-MAP®の7軸の最後に「プロモーター(ファンの口コミで広がっているか)」を置いています。企業がどれだけ広告を打っても、ファンの「自分の言葉」の一投稿には敵いません。つまり、ファンの言語化能力は、ファンダム経済圏で価値を生み出す源です。

三宅さんはこの本で、その能力の身につけ方をすべての読者に教えています。「やばい」しか言えないファンが「自分の言葉」を持った瞬間、その人は消費者から布教者に変わります。企業側から見れば、これほど重要な変化はありません。感想を書きたくなる余白や引用したくなる言葉など、ファンの言語化を助ける仕掛けを用意する。それが広告費より効くファンマーケティングであることを、この本が証明していると思います。

推し活未来研究所メモ:言語化は愛の総量ではなく技術

  1. 言語化は愛の総量ではなく技術 — 語れないのは愛が足りないからではない。技術なら練習できる
  2. 「わかる」と言われたら勝ち — 良い推し語りは共感のきっかけになる。布教の成功率は言葉の具体性に比例する
  3. 企業は「ファンの言葉」を設計できる — 感想ハッシュタグ、引用しやすいコピー、語りたくなる物語。ファンの言語化支援は施策になる

どんな人に刺さるか

  • 「やばい」から先に進みたいファン — 布教の成功率を上げたい人、感想ブログやレポを書いてみたい人にはうってつけの一冊です
  • 推しの記憶を残したい人 — 言語化は布教のためだけではありません。あの現場で自分が何を感じたかを未来に残す、「好き」のアーカイブ術でもあります
  • ファンの口コミを増やしたい企業担当者 — ファンが語りやすい仕掛けを考える人には、実質的な教科書になります

書籍情報

書名『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』
著者三宅香帆
出版社ディスカヴァー・トゥエンティワン(ディスカヴァー携書)
刊行2024年7月

購入はこちら: Amazon/楽天ブックス

公開コンテンツとつなげて読む

布教とはでは、推しの魅力をまだ知らない人へ渡すときの言葉と距離を整理しています。本書の技術を、強いおすすめではなく、相手が興味を持ちやすいきっかけに変えるための実践編です。

推し語りとはも合わせて読むと、上手な文章を作ること以上に、自分の体験をどこまで誰へ向けて話すのかが見えてきます。企業側の視点は推し活マーケティングとはで補えます。

この本を読んだ人におすすめの3冊

書名なぜおすすめか
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆)同著者の大ヒット作。「好き」に時間を割けない社会構造の話は、推し活疲れの問題と地続き
『読みたいことを、書けばいい。』(田中泰延)「自分が読みたいものを書く」という原則は、推し語りにもそのまま効く文章術の定番
『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ)言語化されたファンの熱量が「経済圏」になったとき何が起きるか。次はその構造を物語で(書評はこちら)

まとめ

本書は、布教がうまくなりたいファンにも、ファンの口コミを増やしたい企業にも役立つ一冊です。布教(用語辞典)や推し活マーケティングとはと合わせて読めます。

推し活×本棚では、推し活・ファン文化の本を1冊ずつ深掘りしています。

よくある質問

『「好き」を言語化する技術』はどんな本ですか?

書評家・三宅香帆さんによる、推しの魅力を自分の言葉で語るための実用書です(ディスカヴァー携書・2024年刊)。30万部を突破し、オリコン上半期BOOKランキング新書部門1位を獲得したベストセラーです。

文章を書くのが苦手でも実践できますか?

できます。本書の技術は長文レビューだけでなく、SNSの短い投稿・おしゃべり・ファンレターと場面別に分解されています。まずは「他人の感想を見る前に自分の感想をメモする」習慣ひとつからでも効果があります。

企業のマーケティング担当者にも役立ちますか?

役立ちます。ファンが自分の言葉で語れるほど、口コミは強くなります。本書は、感想を書きたくなる余白や引用したくなる言葉をどう用意するかを考えるヒントになります。推し活マーケティングとはと併読すると、企業側の視点も補えます。